2010年5月号

NI No.432 & NIジャパン No.120

イラク戦争から7年の人々の現実
Iraq: Seven years later - the legacy of invasion

2003年の米英軍主導の侵攻以来、この国は混沌とした状況に包まれている。暴力は依然として続いており、これまでに100万人以上が死亡した。また、復興援助という名の下に530億ドルがつぎ込まれたが、いまだにインフラは破壊されたままだ。

腐敗したイラク政府はサダム・フセイン時代を彷彿とさせる人権抑圧に手を染め、宗派間の緊張も続き、人々は仕事もなく困難な毎日を強いられている。総選挙がこの3月に行われたが、選挙結果をめぐり、そして宗教と政治での駆け引きが続き、いまだに新政権発足のめどはたっていない。しかしそんな中でも人々は、以前の暮らしを取り戻そうと模索している。再開された国立劇場、抑圧的な原理主義に抗う女性たち、より良い暮らしを夢見る若者たち……。現在イラクには、国というアイデンティティーの意識の復活によって、宗派の争いを乗り越えようとする人々も出てきている。

今回は、まだまだ混乱と暴力が支配するイラクをNI共同編集長のハダニ・ディトマスが7年ぶりに訪問して取材を行った。戦争による影響はどうなっているのか、宗派間対立は現在どのような形で人々の生活に影響しているのか、人々は将来をどう考えているのか……。かつて取材で訪れた町の様子、旧知の人々から聞いた7年間の経験、そして新たな出会と実体験から、イラクの人々の現実を報告する。

この号のご注文はこちらから→      セット(英語版&日本語版)    英語版    日本版


● NI No.432 目次 ●


(本文は英語です)


*<>の表示がある記事は、日本版に翻訳(全訳)もしくは要約記事を掲載しています。


2 読者の声


4 イラクという未完のパズル<翻訳>
選挙直前にイラクを訪問したNI共同編集長のハダニ・ディトマス。以前何度か取材で訪れたイラクの状況を振り返りながら、新たなイラクの現実をとらえ直そうと試みる。すでにバグダッドに向かう飛行機の中で、今回の訪問はこれまでとは違うことを予感させる出会いがあった。

7 「アメリカ、アメリカ」
米国の存在とは、私たちにとって何なのか。 イラク人の詩人、作家、ジャーナリストでもあるSaadi Youssefが詩で表現した。

8 サバイバルな今日のイラク
なかなか許可が下りなかったジャーナリストビザの取得を手助けしてくれたイラクのNGO。ハダニはそのスタッフと空港の外で合流し、マリキ首相の「法と秩序」政策で設けられた多数の検問所が目につく町を車で走る。以前とは異なる緊張に包まれた町で、芸術家たちとの接触を試みる。かつてイラクは、熱心に芸術家を支援していた国だった。

11 キリスト教徒の迫害
教会のミサにやって来たハダニ。2003年に参加した時よりもだいぶ参加者が少ないことに気づいた。ミサの後、自ら抱える悩みを知ってほしいと女性たちが次々と話しかけてくるが、治安を理由に教会の牧師は対話時間を15分だけだと制限する。女性たちは、宗教面での寛容さを失ってしまった社会がどのような結果をもたらしているのか、自らの経験を短い時間でハダニに訴えた。

12 診療所の待合室にて<要約>
最近の保健医療事情を取材しに旧知の病院を訪れたハダニ。かつては政治的なことも率直に語っていた病院スタッフも、今回は発言に慎重である。そこには今のイラクを象徴する理由があった。

14 侵攻後のイラク ― その事実<翻訳>
子ども、女性、難民/避難民、インフラ、失踪/暗殺/違法な拘束に関するデータと事例。

16 「イラク女性のように悲しそうにして」
2003年以降宗教色が強まったイラクでは、以前よりも女性に対する制限が強くなり見る目も厳しくなった。ハダニはそれを身をもって感じながら、生活も困窮する女性たちの話に耳を傾けた。

18 権力と栄光<要約>
最後にハダニは、イラクの現状とこれからを考えた。取材で聞いた人々の言葉と彼女が体験した出来事を振り返るが、それは非常に厳しいものである。しかしその一方で、将来への望みをつなぐ人々の言動に勇気づけられ、イラク人と同じく彼女も希望を捨ててはいない。

20 書籍案内


【Special Feature】

21 虐殺犯を擁護する国
1994年に起こったルワンダでの大虐殺。その蛮行に手を染めた人間たちが、実はのうのうと大手を振って欧米社会で暮らしている。その理由とは。



25 世界のニュース<*のついたものを要約で掲載>
*強大な都市化の力(インド)/拡大された投票権(政治)/クジラ戦争(ニュージーランド/アオテアロア)/*違法伐採は止まったのか?(マダガスカル)/*飛び入り入札(環境)/ほか

27 オンリー・プラネット(4コマ漫画)
人間っていったい何?

28 ビッグバッドワールド(風刺漫画)
今日のクラーク・ケント。胸のSの文字はスーパーパワーのSだ。

29 ワールドビーターズ
今年3月、チリにセヴァスティアン・ピニェラという右派の大統領が誕生した。選挙で選ばれた右派大統領の誕生は、1958年以来となる。ハーバード卒の大富豪大統領はいかにしてその地位に上り詰めたのか。彼の当選は今後のラテンアメリカ政治にどのような影響をもたらすのだろうか。

30 ミクスト・メディア
本・映画・音楽の紹介

32 南の国からの一コマ
ブラジルの海の女神「レマンジャ」に捧ぐフェスティバル。

33 社会を揺さぶる人々
ネパールのダリット(カーストにも含まれずアンタッチャブルや不可触民として差別される社会階層)に生まれたドゥルガ・ソブ。フェミニスト・ダリット・オーガニゼーションを立ち上げて差別と闘う彼女へのインタビュー。

34 エッセー:欲求による支配
篤い信仰心で性的な欲求を覆い隠そうとするエジプト社会。しかしその欲求は隠しきれるものではなく、抑圧することで違った形となって噴き出すこともある。

36 世界の国のプロフィール:サントメ・プリンシペ

NI日本版 No.120 目次

(本文は日本語です)

 


1 イラクという未完のパズル(NI p4-6の翻訳)

破壊されたバグダッドへ取材に戻ったハダニ・ディトマス。町は依然として宗派による分裂と不透明な未来に翻弄されていた。

 7年ぶりに私はバグダッドに戻ってきた。
 2003年以降、侵攻後の暴力によって100万もの人々が死んだ。(1) 宗派が対峙した内戦はこの国を引き裂き、外国の軍隊がいくつもの巨大な軍事基地を建て、民兵組織を厳しく取り締まると誓った政治家たちは自ら私兵集団を抱えている。かつては宗教色の薄い世俗国家だったこの国も、過激主義によって痛手を負い、女性、同性愛者、宗教少数派にひどく辛い思いをさせている。省庁は今も知り合いにえこひいきをし、自らの宗派に利益供与するための道具と化しており、国家的な和解はまだ見えてこない。
 530億ドルの「援助」は、外国の請負企業と地元の役人を潤すだけの無駄が多いプロジェクトに費やされてしまったようだ。イラク人の70%が飲料水に困り、失業率は公式には50%近くまで上昇しているとされるが、実際はもっと高い。(2)(3) 腐敗・汚職防止を目的に活動する国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルによれば、現在イラクは世界で5番目に腐敗がひどい国である。ここ数年で治安はいくらか向上しているが、その陰には多大な犠牲があった。宗派による勢力争いは地域と国の様相を変え、現在では町のあちこちにTウォールと呼ばれるコンクリートの防護壁がそびえ立つ。200万人以上のイラク人が難民となり国外に逃れ、300万人近くが家を追われて国内の他の場所に移住し国内避難民となった。この数は人口の約5分の1にあたる。多くの人々は、以前住んでいた場所には恐くて戻れないか、今では町のあちこちに貼られている安心安全、電気、仕事、国民の団結までをも約束したポスターを信じて暮らす毎日に、悲痛な思いを感じている。

・・・・・・ 続きはNIジャパン誌上でご覧ください

5 診療所の待合室にて(NI p12-13からの要約)

かつてはアラブで最高レベルを誇っていたこの国の公的な保健医療システムも、戦争と資金不足によって大打撃を受けている。

 バグダッドの混沌とした町を数日間車に乗って回り、私は体調に異変を感じた。そして、13年ぶりにセント・ラファエル病院のシスター・マリーを訪ねてみることにした。
 カラダの町でもほとんどがシーア派という地区。その中のキリスト教教会の向かいの病院。だが、以前とは様子が変わっており、病院がある道路が丸ごと閉鎖されており、そこへ行くにはセキュリティーチェックを受ける必要があった。病院の入口にカラシニコフ自動小銃とは不思議な組み合わせに映るかもしれないが、何が起こるか分からない。イラク医師会によれば、2003年以降2,000人の医師が殺され1万2,000人の医師が避難したとのことだ。
 私はブトロス医師の診察室に通された。彼は、バグダッドに残る数少ないがん専門医である。彼は用心深く、カメラの前では話さない。だが、彼を責める気は起こらない。彼が過去に民兵から脅迫を受けていたことを聞いてからはなおさらだ。また、彼は近くの公立病院でも診療を受け持っているため、政府の反応も気にしている。サダム・フセインの時代には、経済制裁措置に反対する目的で病人や死者のイメージがテレビで乱用されたが、今ではメディアが公立病院と接触を持つことも難しい。
 それはイラク侵攻後となった前回の取材でも同じだった。私は旧サダム子ども病院の外科主任の話を聞きに行ったが、誰にも分からないように行動した。その時外科主任は、当時の小児医療の現状について制裁措置の時代よりもひどいと語った。停電、基本的医薬品の慢性的な不足、治安の悪化、保健省からは病院の運営費も下りてこない。彼は言った。「実際、政府なんて存在しません。社会から取り残されている感じです。すべて自分たちの手で何とかしてきました」

・・・・・・ 続きはNIジャパン誌上でご覧ください

7 権力と栄光(NI p18-20からの要約)

選挙に向かうイラク政治に見られる特徴は、混乱、暴力、黄金時代へのノスタルジアである。

 イラクの「民主主義」はまだ芽が出始めたような段階なので、一部のイラク人が選挙に熱く興奮するのも無理はない。サダム・フセイン時代に新聞のコラムニストをしていた人物やイラク国立交響楽団の年配の指揮者、そしてスーフィー派の長老まで、誰もが選挙に立候補するのではないかという雰囲気に、私は驚かされた。かつては町のあちこちにサダム・フセインの写真が貼られていたが、現在はそれよりも多くの選挙ポスターが目につく。
 私の頭に浮かんできたのは、「2000年の総選挙」での体験だ。その時はフセインが98%(100%にならないよういつも注意が払われている)の票を得て勝利した。私は投票所でイラク人にインタビューしたが、誰もがうれしそうにしていたのが印象的だった。とっておきの外出着で着飾った家族が総出でやってきて、唯一の候補者に投票し、友人や近所の人たちとあいさつを交わしていた。経済制裁措置によって包囲されていたイラク人にとって、この祝日は気晴らしの外出の機会となった。イラク情報省の付き添いとして私を世話してくれたバグダッド在住の若いクルド人は、「それは、普通の生活をしていることをアピールする方法だった」と言った。
 もちろん現実は違う。乳児死亡率の増加、ほとんど毎日続いた米英の爆撃、経済制裁による孤立の深まり、フセインの行き過ぎた警察国家のせいで悪化する貧困など、それまでの状況は普通とは全く異なる。
 そして現在も普通などとはほど遠い状況だ。選挙運動の活動資金に関する法律は存在せず、現職は自分たちの再選のために国のカネを利用できる。マリキの私兵は、選挙で対抗馬となる可能性がある人々を「面倒を起こす者たち」として一網打尽にしたと伝えられている。(1) 対抗する政党やマイノリティー(社会的少数派)への弾圧、過去の選挙の正統性に対する疑義や低い支持率など、現政権に対する批判を耳にする。(あるイラクのLGBT(性的少数派)団体のメンバー3人が、数カ月にわたって投獄され暴力を受けていた。彼らは先日釈放されたが、「おまえたちは首相の慈悲によって釈放されたのだ。その恩人に投票しないと後悔することになるぞ」と告げられた。)(2)

・・・・・・ 続きはNIジャパン誌上でご覧ください

10 侵攻後のイラク ― その事実(NI p14-15からの翻訳)
子ども、女性、難民/避難民、インフラ、失踪/暗殺/違法な拘束に関するデータと事例。

12 日本での動き
〜平時とはとても言えないイラクで、人々は実際にどんな問題を抱え、それに対して日本のNGOはどんな協力を行っているのだろうか。
●過去と現在の苦しみを軽減する心理ケア <日本国際民間協力会
●食料支援から地域活動への模索 <日本国際ボランティアセンター
●がんの子どもを支える支援 <日本イラク医療支援ネットワーク

13 アクション! ─ 何かする・もっと知る
・日本の団体と参考ウェブサイト、本、資料などの情報。

14 今月のフォーカス(NI p21-24の要約)
●虐殺犯を擁護する国
1994年に起こったルワンダでの大虐殺。その蛮行に手を染めた人間たちが、実はのうのうと大手を振って欧米社会で暮らしている。その理由とは。

15 世界のニュース(NI p25〜27からの要約)
・強大な都市化の力(インド)
・違法伐採は止まったのか?(マダガスカル)
・飛び入り入札(環境)

16 編集後記、次号のお知らせ、ほか

NIジャパン目次トップへ



  ●バックナンバーリストへ