北極は誰のもの?
(一部要約)
Who owns the Arctic?
New Internationalist No.424
Jul/Aug 2009 p18-19

本誌ジェス・ワース(JW)がマイケル・バイヤーズ(MB)に行ったインタビュー。
 (NI日本版p12の続き



JW: 航路が開かれるにつれ、北極の豊かな石油と鉱物資源をめぐり、各国は有利な位置に立とうと競い合うようになっていますか?
MB: 強調しておきたいのは、北極の外交において大勢を占めているのは、協力していくという姿勢です。この考え方は、デンマークが呼びかけて1年前にグリーンランドで行われた北極周辺国のサミットで再度強く確認されました。このサミットが開かれた理由のひとつに、メディアの報道があります。メディアは、北極において軍事力増強と資源獲得への競争が起こっており、それは勝者がすべてを手中に収めるゼロサムゲームの様相を呈しているという見方を示したのです。
 これは非常に深刻で過った報道です。実際は、北極地域は広大で、北極の5カ国はそれぞれの国の主権範囲について疑問をさしはさむ余地はありません。ですから、カナダが持つエルズミア島の領有権には誰も異論を唱えませんし、広大な国土によってロシアが合法的に北極海に持つ領海に疑問を投げかける国もありません。海底の資源に関しては、200カイリの排他的経済水域内はそれぞれの国の主権範囲です。現在、北極の75%がこの地域の5カ国(ロシア、ノルウェー、デンマーク、カナダ、米国)のいずれかに割り当てられています。
 さらには、「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」では、沿岸国の領土から大陸棚が「自然に延長」していることを示すことができれば、200カイリを超えても一定の場所まで権利が認められることになっています。これは、地形や鉱物的な特徴など詳細な状況を科学的に判断するものです。調査は現在行われています。この夏カナダと米国は、それぞれ1隻ずつ砕氷船を出し、ビューフォート(ボーフォート)海の海底地形図作成のための探査活動を共同で行いました。カナダとデンマークは、共同でロシアの砕氷船をチャーターし、グリーンランド北部で活動しました。5カ国の科学者は、技術的な会合を定期的に開いています。このように、各国間では協力関係がしっかりと築かれています。
JW: 北極での軍の活動は増えていないのですか?
MB: 増えています。5カ国すべてが警備力の増強を図っています。兵士に対しては、北極の環境下における生存、捜索、救助の訓練が行われています。また5カ国とも、環境保護の観点とその他の法律を順守するために、砕氷船の船団の更新を行っているところです。しかしどの国も、将来的な軍事衝突のことなどは考えていません。各国の関心は、国家ではない者たちへの警戒です。それは、北極を経由して麻薬の密輸や不法移民を運ぶことを考える輸送会社や国際的な犯罪組織、または北極を何らかの形で利用しようと考えるテロ組織かもしれません。最近ノルウェー政府が、ロシアの北極での軍事力増強の計画には懸念を持っていないと述べたのは、そういうことなのです。評論家の中には、このような動きを「新たな冷戦」という目で見ようとする人もいますが、すべての関係諸国は実際にはうまく協力しています。
 私が心配なのは、政治家が国内選挙向けのポーズとして、軍事的脅威や北極での主権を利用することです。少なからぬ政治家たちがそのようなことを行っています。例えば2年前の夏、ロシアは北極点の海底に国旗を立てました。それは、大統領選挙に向けたスタンドプレーでした。国旗を立てること自体は違法なことではありませんが、不要な行為です。その行為が不適切な報道のきっかけとなり、北極での衝突という見方にいくらかの信憑性を与えてしまったのです。
 もうひとつ例を挙げましょう。グリーンランドとエルズミア島の間には、ハンス島という小さな無人島があります。デンマークの政治家は定期的にハンス島を訪れていますが、これは純粋にデンマークの国内政治のための行為です。北極における主権に関して誇示し、ハンス島をめぐってカナダとの間に深刻な論争があるように装っておくことは比較的リスクにならない国内向けアピールのやり方です。そしてカナダも全く同じやり方をしています。先日ロシアの軍用機がユーコン準州のすぐ北の国際空域を通った時、カナダの国防相はそれについて騒ぎ立てました。これについては、次期NATO(北大西洋条約機構)事務総長ポストを狙っての彼のアピールだったと考えたのは私だけではありませんでした。もう一度言いますが、政治家の個人的な野望が、将来北極をめぐる衝突が起こるという誤解を生み出す元になっているのです。私はこれが心配です。たとえそれが誤解であっても、特定の状況下では実現してしまう可能性があるからです。衝突に関して話題にすれば、現在何もなくても実際に衝突を引き起こす可能性があるのです。

マイケル・バイヤーズ
バンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学のグローバル・ポリティックスと国際法学部で、カナダ研究チェア・プログラムに従事。



2009年7/8月合併号 NI424号/NI日本版112号
「北極の未来・環境・先住民 The Arctic」






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